政治的景気循環(99.12.3)
最近話題の介護保険制度は、自民党は当初保険方式(見た目の自己負担大)を4月1日から導入するという方針だったが、自自公連立の維持なども考え、税方式(直接的な自己負担が小さく見える)へと変換した(正確には半年間の凍結という先延ばし措置をとった)。以下では、こうした政治の動きには何か一貫した理論があるのか、それは実体経済がどう関連するのか、を分析する。
■理論
政治経済学のポイントは何点かあるが、その1つには政治家の目標設定として「政党は政権につくことがその効用を最大化する」と仮定することである。その根拠は、政権につくことで様々なレント(なんらかの利益)をえられたりする事などである。
これを念頭において、選挙について考察する。すると、選挙に勝つためには選挙前に一時的に景気をよくして、現在の政権の支持率をあげる必要があり、選挙後は、しばらく評価の場がないことを考え、引き締め型の政策で財政を立て直すことになる。まとめると、
・選挙直後には、自由度が高く厳しい経済政策が可能になる。
・選挙直前には、放漫な経済政策になることが多い。
これが政治の戦略的行動である。こうした根拠により、選挙に基づく政治的な景気循環(選挙の前には景気がよくなる)があるといわれており、実際にアメリカでは選挙の直前になると財政政策が放漫化するという実証研究もある。
また保守政党は小さな政府を目指し、リベラル型政党は、福祉型の大きな政府を主張するが、選挙の結果リベラル型が勝利して、結果として大きな政府になるのであれば、政権党である保守党も「赤字」という「つけまわし」するインセンティブをもつことになる。このようにして景気循環がおこるプロセスも考えられる。
■日本のケース
今回日本で18兆円の経済対策が実施されることになった。これは景気浮揚策なのはもちろんであるが、来年1月ともいわれる衆議院の解散総選挙をみこしての財政政策、政治的景気循環の一種ともとれる。またさきほどの介護保険制度の変更も、自自公連立を維持し、世論の批判をかわして、政権を維持するための戦略的行動ともいえる。
■アメリカのケース
さてアメリカはどうであろうか?
アメリカでは、クリントン政権が安定的に長続きしているが、その背景にはこうした政治的景気循環のプロセスの興味深いインプリケーションがある。
クリントン政権の前のブッシュ政権は1992年まで続いたが、選挙前にはこの理論と整合的に、放漫な経済政策を実施した。しかし残念ながら、選挙の前までに効果がなかなか表れず、景気はよくならなかった。そこで、対立候補であったクリントンが勝利したのである。これはブッシュ政権にとっては戦略的な失敗例であるが、皮肉なことにクリントン政権が発足してから、ブッシュ政権の経済政策の効果が出てきたのである。
それが契機となってアメリカは未曾有の経済成長期にさしかかり、クリントン政権はブッシュ政権の政策に「ただのり」する形で経済立て直し・成長に成功し安定して2期目の任期を獲得したともいえる。
またアメリカは今年度大規模な経済政策を実施したが、これも来年度の大統領選挙をみこした政権党の戦略的行動とみることもできる。
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