金融政策のマーケットへの影響(99.4.10)
最近日本銀行による金融緩和政策がとられている。これは量的緩和も視野に入っており、市中に流通する貨幣量の増加が政策課題である。具体的には、公定歩合の引き下げ・低水準での維持(現在は0.25%で、これは史上最低)や、短期金利の低め誘導などの金利政策を実施している。
市場の原理としては、乱暴であるが「利子率が低くなる→みんな沢山お金を借りようとする→貨幣が出まわる」と考えられていることが多い。このようなロジックを仮定すると、利子率の低下による実体経済への期待されているチャネルは、以下のようである。
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株式などでの運用需要を増加させる、すなわち株価が上昇する。ただし最近の日本の株価の急上昇は、この要因の他にも、米株式市場の先行き不安感による外人投資家の運用先のシフトなども要因といわれている。昨日、ユーロの中央銀行が利下げを発表した事を受けて、英仏でも株式市場が史上最高値をつけた。 |
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様々な議論があるが、オーソドックスな経済学では、利子率の低下は設備投資の増加につながる(設備投資は一般に利子率の減少関数と考えられている)といわれ、設備投資増は国民所得(GDP)を増加させる。「景気がいい・悪い」の指標は一概には言えないが、一般的には「四半期GDPの前期比」などGDPが中心になることが多い。すなわち景気に影響を与えるのである。 |
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新規国債の需給悪化懸念にともなう長期金利上昇の抑制。前回も書いたが、国債が沢山発行されると余るのではないか、と予想されその利子率(長期金利)が高くなるのである。長期金利が上昇すると、投資意欲が減退するので問題視されている。 |
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利子率が低下すると海外に資金がシフトして円安になる。これは輸入財価格の上昇をともない、物価の上昇を誘発する。これは最近のデフレ傾向を牽制する。 |
しかし2に関しては、現在の日本は、過剰設備やストック調整(在庫があまっちゃって大変)の状態ともいえるので、従来では景気回復を引っ張ってきた設備投資がなかなか上向かず、それも問題視されている。そして景気を下支えしていた消費も最近は回復したものの1時期は落ち込み、戦後初の「経済成長率がマイナス」という事態を迎えることになった。(正確には、1976年のオイルショックの際にもマイナス成長であったが、これは第3次中東戦争という1時的かつ地域的な外的要因によるものである)
また昨年夏にはポール・クルーグマンによる「Japan's trap」が物議を醸したが、これは日本が今「流動性のわな」に陥っており、それから脱却するには量的金融緩和が必要であり、また利子率を下げても効果がない場合は軽いインフレをおこし、さらに実質利子率を下げるべきだという調整インフレ論である。
これは元重先生によって日経の経済教室で紹介された。元重先生によれば「こういう議論もある、と紹介しただけ」とおっしゃっていたが、日本の経済論壇では調整インフレ論の急先鋒のように扱われ、某雑誌では「伊藤元重、調整インフレに学者生命をかける」というタイトルまで現れた。もちろんこれは大うそ。(笑)
以下でこの調整インフレの根底にあるロジックを簡単に紹介する。マクロ経済学でよく使われるフィッシャー方程式として
(実質利子率)=(名目利子率)−(期待物価上昇率)
がある。この方程式の詳細の説明は省略するが、名目利子率が年率7%でも、期待物価上昇率が9%だと、実はお金を預けても、実質的な価値はへってしまうことになる。そこでクルーグマンは、マネーサプライを増やしても効果が出ない流動性の罠に
陥ってる現在、名目利子率がすでにこれ以上下げられない水準に来ているので、もう1つの変数である(通常は変数ではないが)物価上昇率を操作変数にすることを主張しているのである。
上記の式を見ながら考えていただくとすぐわかると思うが、物価上昇率が上昇すると名目利子率が一定ならば実質利子率が下落することになる。それによって経済にインパクトを与えよう、というものである。また金利政策ではなく、実質的な貨幣量を増加させる、量的緩和という政策ともある意味では重なることになる。
しかし日本銀行は、長きにわたって「物価の安定=インフレ抑制」を政策課題にしており、本来このようなインフレを直接指向した政策というのはアレルギーが出るもののはずである。ところがその議論が出てしばらくしてから日銀の調査統計局(主に経済分析をするセクション。優秀なエコノミストを抱えている)でも真面目にとりあげられていたという。この事態は、その時点で他に打つ手がなかったことを示している。
現在ゆるやかながら景気が底を打って、横ばいか上昇傾向にあるのは、金利の低水準を指向した金融緩和政策を積極的にうち出したことも1因といえる。それに対して、上記のようなインフレターゲティングや量的金融緩和は、日銀の政策委員会でもいまだ議論されているが、ひとまずは金利の低め誘導などを実施し、その成果を見極めているといえる。前回議論した国債の日銀引受と同様、それが議論の対象になること自体、現状の厳しさを物語っている。
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