「貸し渋り」の経済学的分析(00.7.23)
一昔前に、銀行の貸し渋りが問題になりました。これはデータの上では、銀行の貸出残高が減少していた、ということですが、銀行に対して公的資金を注入してるのに、なぜそんなことになったのか、今回はこの原因を簡単に分析します。
全体として貸出は減っていますが、単に銀行が貸し渋っているのではなく、その他にも色々な理由があるので、まとめます。前半2つは、銀行が貸出を減らした理由、後半2つは貸出が必要とされなくなった理由です。
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【銀行への健全規制の影響】
銀行の健全経営を確保するために、BIS規制が導入されしました。それは自己資本比率(後述)について、国内基準行は4%、国際基準行は8%を割ると早期是正措置(後述)が発令される、というものです。
自己資本比率とは、自己資本/リスク資産 です。これは銀行経営の健全性を表す指標といわれますが、具体的に、自己資本は株主資本や株式の含み益、リスク資産は企業向け融資などの貸出(リスクによってウェート掛け)です。
早期是正措置とは、金融再生委員会が、不健全な銀行を業務停止にしたり、あるいは破綻処理したりすることです。すでに証券会社も含めて、何軒かそうした措置が取られています。
さて、こうした背景があると、銀行は自己資本比率を少なくとも8%、そしてもちろんもっと高くしたいと考えるわけですが、その際どうするでしょうか。
実は分子である自己資本を高めるのではなく、分母であるリスク資産を減らす方向になっています。それはつまり、貸出・融資の額を減らすわけです。結果として、貸出の審査を強化して、リスクの高い貸出は減りました。それが貸出減少の1つの要因です。ただ「必要以上に貸さなくなった」のは問題ですが「今まで何も考えずに貸していた危ない所に貸さなくなった」のは、ある意味で健全な事です。その境目は難しいとも言えますが。
【Debt over hang】
英語ですが、簡単に言えば「確実に収益があがる事業を持っている企業でも、不良債権が大きければ、全体では債務超過になるので貸出は実施されない」ということです。Debt(債務)が貸出をやめさせる(Over
hang)させるのです。
銀行は貸出に関して、収益が上がれば嬉しいわけですが、相手企業全体が債務超過であれば、倒産のおそれがあるので、そのリスクがあり貸出は出来ません。マクロ的な実証もされているので、ある程度その傾向はあるみたいです。
対策としては、整理回収銀行みたいに、不良債権を分離して分社化できたり、あるいは分社化した後も、連結納税(後述)で法人税負担が変わらないような制度ができればスムースに事が進み、健全な部分への貸出は増加するでしょう。
※連結納税:
具体例で説明します。企業Aと企業Bがあって、2つはグループです。ある期の収益は、企業A:25、企業B:−20だったとします。赤字企業には法人税はかかりません。すると、通常だと企業Aにだけ課税されるので、グループとしては25に課税されます。次に連結納税とはグループ企業の収益の合計に課税されるので、その場合25+(−20)=5に課税されるのです。
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【投資需要の問題】
企業側が「どれだけ投資したいのか」「そのためのお金がどれくらい欲しいのか」という問題です。企業はコンピュータを買ったり、新しいビルを買うとき、銀行にお金を借りて実施しますが、経済学ではそうした投資需要は、売上げの増加分に比例すると
考えます。(下記参照)
現在は売上げが落ち込んでいたので、それに対応して投資需要もへり、結果として企業は銀行からお金を借りる必要がなかったので、銀行の貸出が減ったとも考えられるのです。事実、収益が改善してきた企業は、最近になって新規投資計画を発表しています。
加速度原理(新古典派):
Kt = VYt, I = Kt - Kt-1 → I = VYt - VYt-1 = V ( Yt - Yt-1
)
K:資本ストック、Y:売上・GDP、I: 投資、V: 資本係数(固定)
【資本市場の整備】
企業にとって、資金調達の方法は、銀行貸出・社債・株式増資などがあります。銀行貸出を間接金融、社債・株式を直接金融といいますが、社債マーケットや株式市場の拡大・整備によって、間接金融から直接金融へのシフトが起きています。
大企業など直接金融で調達した方が安上がりな健全な企業は、銀行から借りる必要がないので、この面からも銀行貸出が減っているといえます。
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