不良債権問題の本質−企業と株価(98.12.13)
不良債権問題を考えるにあたり、当然その「企業」の経済活動がポイントになります。そこで以下では、
・企業が破綻しているとは何なのか
・企業価値とは一体何なのか
・株価は、本当にその企業の価値と考えていいのか
・ある企業がつぶれそうで優秀な人材が流出しても、その人材が他の企業で活躍するのなら社会全体で損してないでのでは
の4点についてまとめることにします。
■企業が破綻しているとは何なのか
Answer
基本的には、「債務超過」か「流動性の確保が困難」の状態といえます。「債務超過」とは、その企業の資産よりも負債の方が大きい状態です。簡単に言えば所有している土地や、資産(工場など)、預金などの資産を合わせても借入金など将来払わなければならない負債総額の方が大きい時です。だいたいゴマカしたり、あるいは、正確に負債と資産の総額を把握するのが困難なため社会的には明らかにならないわけですが、それがばれると債務超過となります。
今回の日債銀の「債務超過認定」というのは、あまりに債務超過が明らかだから政府が「そろそろあきらめなさい」と通告したということです。債務超過が明らかになれば、直ちに破綻となり、企業をどう処理するかを考えることになります。
「流動性の確保が困難」とは、日々の企業行動に必要な資金を調達するのが、困難になってきたという意味です。企業は、資金を常に現金としてを手元に置いているわけではありません。定期預金もあれば、証券の形態もとります。そこで、銀行などは一泊二日の借金などもして毎日の資金を確保しています。その際利子を払うわけですが、危ないと噂される企業は高い利子率を払わないと、貸してもらえなくなるわけです。そして高い利子を払っても、どこも貸してくれなくなると、それはすなわち市場が退出を命じた事になります。長銀や北海道拓殖銀行などはこちらです。(結果として債務超過にもなっていましたが)当然企業活動を続けられないので破綻となります。
最近の傾向としては
債務超過の噂が流れる→市場で流動性が確保出来なくなる→破綻手続きを取る→検査すると債務超過であったことが明らかになる
というパターンが多いようです。
■ 企業価値とは一体何なのか
Answer
通常企業価値は、市場での評価ということで株式市場の評価、すなわち企業の発行済み株式の総額ということになります。
マーケットの判断というのは、現在だけでなく、将来時点を織り込むなどそれなりに複雑な決定様式と考えられています。また、不特定多数の意思決定者が参加すると仮定されているので、その企業の体力を相当程度反映していると考えられます。
■ 株価は、本当にその企業の価値と考えていいのか
Answer
必ずしもそうとはいえません。日本のマーケットが、優良な企業の株価が高く、劣悪な企業の株価が低い、といった純粋なマーケットメカニズムに順応しているか、という構図は必ずしも成り立ちません。
基本的には、上述のように体力を相当程度反映していると考えてもいいのですか、例えば、機関投資家(大量の資金でとにかく儲けたい)のキャピタルゲインの利鞘確保のための売り(株価の動きだけに注目して、安く買って高く売りたい。すると劣悪企業の株が安いのでそれを買う。それで一旦その株価が上昇をはじめ、ちょっとずつ買い足すとまた上がる。そしてある程度あがったところで最初に買っていた株を売る。こうして、その企業のファンダメンタルズがそんなによくなくても株価が高くなることがありうる)などで、真の企業価値を決定する仕組みとしては、歪みが入っている可能性があります。
■ ある企業がつぶれそうで優秀な人材が流出しても、その人材が他の企業で活躍するのなら社会全体で損してないでのでは
Answer
正確ではないですが、損失が発生する可能性はあります。ここでは、人材の流出自体が問題なのではなく、それによってその企業が存続できなくて保存価値が失われていくこと、が問題点になります
企業がその価値を保存したまま存在していることで、社会的にも厚生が保たれるわけです。しかしながら優秀な人材が流出してその企業価値が下がり、結果として破綻して、ほぼ無価値になってしまうと、それこそ社会的な厚生が減少している、すなわち損失が発生していることになります。
人材の流出に関しては、外資系金融機関には、ディーラーなど、「外資ゴロ」と呼ばれる集団が存在するほど人材の流動化が激しく、それは、それなりの弊害はあるものの一般的には悪いことではありません。
日本の労働マーケットはまだまだ発展の余地がありますが、それでも正当な評価とヘッドハンティングが進んでいるので、優秀な社員と目される集団は、常にそのターゲットに上がっているはずです。優秀な人材がその実力を最大限に活かされる職場で働くことは、社会的な厚生を高めますので、その流れ自体は促進する必要があります。
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