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 Economics Today
 2000/4/28号
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  みなさん、こんにちは片山です。長らく間があいてしまって申し訳ありません。実はPCの調子がすこぶる悪く、
 特にブラウザ−(IE)はほぼ機能停止でした。原因不明のまま、Nescape 6を
 雑誌の付録CDからインストールした所です。
  さて、今回はゴールデンウィーク前ということで、初級と上級をまぜた内容にしたいと思います。テーマは「年金」です。初級では最近の年金の制度改革や
 その背景の簡単な解説、上級では理論モデルについての説明をします。
 初心者の方は、初級の方だけお読みください。年金問題の概略が分かると
 思います。(全体は長めですが、初級だけでしたら、そんなに長くないです)
  ちなみに前回までの政策や政治についての記事も、色々な反応を頂きました。有難うございました。極力返信しているのですが、まだの方、ご容赦下さい。
 また次回以降もトピックとして取り上げるつもりです。
  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■目次
 1 年金問題の問題点の分析(初級)
 2 年金システムの移行と余剰変化(上級)
 3 編集後記
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 1 年金問題の問題点の分析(初級)
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 【年金の種類】
 年金といえば、一頃新聞では「確定給付型」とか「401k」とかが紙面を
 にぎわせました。あれはなんぞや、ということです。
 もともと年金には賦課方式と積立方式の2種類があります。解説すると、
  ●賦課方式:ある時点で、若い人が年金を払い、その時点の老人がそのお金を分ける
 ●積立方式:若い時に年金を自分のために積み立て、それと利子を将来老人に
 なったとき受け取る
  ということです。日本政府は修正積立方式といっていますが、内容的にはほぼ賦課方式です。つまり、若い人がその時点の老人の給付金を、シェアして
 拠出しているのです。(経済学では若い人と老人の2人で考えます)
 401kは、この積立方式の年金の商品のことです。
  【問題点1】ここで問題点は、若い人口が減っている事です。若年・老人が各100人で
 年金を1円と仮定すると、若い人が1円払い、老人が1円もらいます。
 若い人は1円払ったので、老人になったら1円もらう権利ができます。
  そしてその若い人が老人になったとき、その時点の若い人の人口が減少して95人くらいになったとすると、老人がもらうべき100(人)×1(円)
 =100(円)を95人でシェアする必要があります。(約1.05円)
  そしてまた次の時代になって、若い人が90人なったら、老人がもらうべき95(人)×1.05=100(円)を90人でシェアするので、約1.1円
 払う事になります。
 このように、人口が減る事で、どんどん1人当たりの負担が大きくなるわけです。
 これが1つめの問題です。
  【問題点2】次に、このような現状で、積立方式は魅力的に見えます。つまり、1人1人が
 将来の自分のためにお金を積み立てるので、人口減少には影響を受けないからです。
 ところがここに2つ目の問題点があります。
  よーく考えてもらえば分かりますが、方式を移行するときは、ある世代の若い人は、
 1 老人がもうらうべき年金を、若い人でシェアして支払う(賦課方式に対応)
 2 自分の将来のために積み立てる(新しい積立方式に対応)
 の両方を負担しなくてはいけないことになります。これは大変です。
 これが2つめの問題点です。
  【日本の現状】問題点1より、このままでは大変になるので、早く積立方式に移行しようと
 していますが、問題点2があるのですぐにはできません。その過重負担部分を
 政府が出すか、あるいは国民が負担するか、はまだ結論が出ていません。
  「どうせ払ってもその分もらえないんだろ」とよく言われますが、問題点1で「老人は若い時に払った分をもらう権利がある」と説明しましたが、年齢制限
 などをもうけて「老人に払う額」を出来るだけ少なくしている、という事です。
  年金も早急にシステムを考えないと破綻しますので、経済学者を中心に今まさに、よい方法を探しているところです。注目しましょう。
  #次の上級では、方式を移行する際に実は余剰が向している、と主張している論文を紹介します。
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 2 年金システムの移行と余剰変化(上級)
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  年金システムが主に2種類あって、その移行にはコストが伴う可能性を、上の記事で説明しました。ここでは、その移行が実は余剰の改善につながる可能性を
 示します。(ある程度の知識を前提とさせていただきます)
  −−−賦課方式はある期の所得再分配ですが、ニュアンスとして累進性のある所得税
 と同じ感じになるので、労働インセンティブの問題からdistortion(歪み)が
 発生している可能性があります。(ちなみに積立方式は、自分のためですから、
 lump-sum tax(支出税)のニュアンスがあります。)
  さて、ここで移行期(賦課→積立)の若い世代を考えます。積立方式を貯金と完全代替と考えて、完全な積立方式の状態を「若い人の年金
 拠出が0円の状態(=年金拠出は全部賦課方式に使われる)」とします。
  若いときは、ある額を老人に支払うわけですが、自分が老人になった時にもらう額が、若い時に払ったよりもちょっとだけ少ない額でも、効用は
 変わらない事になります。これは、上に書いたように、賦課から積立に
 移行することで、distortinが少なくなるので、沢山もらえてdistortionが
 あるのと、ちょっと少ない額しかもらえなくてdistortionが少ない状況で
 効用が同じになるからです。(あるいは同じ効用になるレベルだけ支給額を
 下げる)
  このようにして、効用を下げずに、年金の支給額を徐々に減らす事が可能であることが示せました。ここで、t(時間)を無限に取ってやれば、給付額は
 0に収束するのは明らかです。(つまり積立方式に完全に移行)
  さらに今は、効用が無差別と書きましたが、むしろ個人にとって、支給額(もらう額)を減らすときに、減らす事による効用の低下よりも、支給額を
 減らした事によるdistortionの低下による効用の増加が大きい場合には、
 積立方式に移行することで、ネットで効用が増加している事になります。
  これが冒頭に書いた含意です。しかし、この理論も個人を代表的な個人に限定していること(個人がidentical
 な場合はつらい)なども問題点もあります。
  ちょっと難しすぎましたか?(笑)これがいわゆる学者の考えている理論の世界です。現実と一致しているか、と
 いうと、必ずしもそうではなく、極度の仮定の元に何らかの結果を求めています。
 世の中は複雑ですから、とりあえず、1つの動きについて1つの効果を見る、
 という感じでしょうか。複雑な動きを1度に全部捉えようとしても、それは
 つらいですから。
  ちなみにこれは、Journal of Public Economicsに掲載された誰かの論文です。ご興味のおありの方は、正確にお教えしますのでご連絡下さい。
 (本当は明記すべきですので、僕の怠慢です。ご容赦下さい。)
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 3 編集後記
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  簡単にするといいつつ、こんな内容になってしまいました。ごめんなさい。上級がキチンと理解できた方は、大学院でも議論についていけます。
  目標は、コーヒー1杯と5分あれば楽しめるマガジン、ということなので、なかなか短くなりませんが、号外的な感じで、実際のニュースに一言コメント
 みたいのも、してみたいとは思っています。
 (そちらの方がニーズがあるだろうし)
  ではまた。  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■文中のコメントは筆者のオリジナルな見解であり、一切の権利は筆者に帰属
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 ○メールマガジン「!!使える!!経済の基礎知識から応用まで」2000/4/28
 発行部数: 5060 部
 発行者 :片山 健太郎
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