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Economics Today
2000/1/10号
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みなさん、こんにちは片山です。
新年あけましておめでとうございます。
いよいよ2000年がスタートしました。
Y2K問題は無事クリアできたものの、年明け早々株価が乱高下したり、
7−11とソニーが電子商取引で提携したり、と早速様々なトピックが
出ています。
今年のマガジンの目標は、
・とにかく続けること
・新聞などの記事の解説をすること
・あるレベルの理論を簡単に紹介して現実に適用すること
・みなさんからの質問の解説をマガジンですること
の4つを目標にしたいと思っています。
そんなわけで年明け最初の号ですが、今年も1年よろしくお願いします。
みなさんからのメールが支えにもなりますので、お気軽にご意見・質問など
お寄せ下さい。
今回は最近話題のペイオフについてと、株価などの予測についてを説明します。
ペイオフについてはしっかり書いてありますので、参考になると思います。
ではまた後ほど。
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■目次
1 ペイオフ延期の分析
2 株価など予測
3 編集後記
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1 ペイオフ延期の分析
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○ペイオフとは
先日2001年3月に予定されていたペイオフ解禁が、全て1年間延期される
ことが決まった。まずは、用語説明から。
ペイオフ:金融機関が破綻した場合、預金は上限1000万円しか払い戻され
なくすること。現在は時限的に全額保護されている。
その1000万円に、決済性預金などは含まれない
簡単に言えば「お金を預けていた銀行がつぶれたら預金は1000万円まで
しか返ってこないよ」ということである。
解禁に伴い予想されることは、つぶれる可能性のある中小金融機関から預金を
引き上げ、つぶれる可能性の少ない大手銀行に預け直す、という資金シフトで
ある。(勝ち組と負け組が明らかになる)
こうしたペイオフを解禁する理由としては以下のようなことがある。
・預金保険機構(破綻金融機関への資金援助をする)には資金制約があること
例)アメリカでは10万ドル、英・仏などでも同様の上限設定あり
・破綻しても全額保護されるケースだと、銀行経営のモラルハザードが生じる事
・資金シフトを考慮して、credibleになるため銀行が構造改革を進めること
1つめと2つめが主な理由であり、大筋としてペイオフ解禁の方向で進んでいる。
しかし当然の事ながら金融機関、特に中小の機関ほど脅威である。
こうした流れの中で、どうして今回のような「延期措置」になったかを
分析したい。
○延期までの動き
「2001年3月にペイオフ解禁」の方針がきまる
→決済性預金などを全額保護する動き:その方向で決定
→信用組合だけ全額保護の動き:信組だけを特別扱いすることへの懸念
→全面的ペイオフ延期の動き
→全面的ペイオフ延期決定
○その間の関係者の意見
・大蔵省 「延期しない」(その意味では今回は敗北である・・)
・宮沢蔵相 「延期しない」→決定後「延期してもいい」
・自民党政治家 大半は「延期しない」
ごく一部(金融監督庁長官越智美智雄など)のみ「延期する」
○ペイオフ延期サイドの表向きの理由
・今の日本の金融界はまだまだ脆弱であり、再度金融システム不安を招きかねない
例)ムーディーズなどでの格付けはこぞって低い
・中小金融機関から預金がシフトしてしまい、破綻するところが出てくる。すると
破綻コストが大きくなるので困る。
○実際の理由
・信用組合などからの政治圧力
(今ペイオフが解禁されると預金が逃げてしまうので困る→政治家へ圧力)
・信用組合の監督権限が都道府県から金融監督庁に移管するが、都道府県は
この1年監督を怠けていたために、信組は大手都銀のようなドラスティックな
改革が進んでいない。そこでその懐柔策としてペイオフを延期する方針へ。
○ペイオフ政策の経済学的分析
筆者の意見は簡単で「延期すべきではなかった」である。
<理由1>
もっともスピードの遅い部分にスピードを合わせて全体を進める、という従来の
「護送船団行政」そのものであること。
ただし、今回注視すべきは、責任は全て政治家にある点。
大蔵省や識者、大手都銀は全て「延期に反対」を表明している。「延期賛成」を
唱えてるのはリチャード・クーのような「エコノミスト」(エコノミストと経済
学者は全然違うことを以前書きました。今回はエコノミストでも反対を表明して
いる人が多数)と、信組の代弁者である一部の政治家、そして弱者としての
当事者くらいである。
護送船団行政が行き詰まり、世界のマーケット化にそぐわなくなったのは厳然
たる事実であり、それは当局の認識としてはあったにもかかわらず、政治的な
力によって今回のような結果になった。
これは金融セクターの構造改革を著しく遅らせることになる。この1年間に信組
が相当程度の構造改革を進めなければ、全くもって不毛な「延期措置」になる。
またこの「延期措置」によって、潜在的な破綻金融機関が0になることは決して
ないのも事実である。
<理由2>
格付けを留意しているが、それは論理が逆であること。
すなわち、「格付けが低いから保護しなきゃ」のではなく「保護しているから
格付けが低い」のである。その証拠にペイオフ延期の情報が流れたとたん
銀行株は下がり、さらに格付け機関も下方修正を示唆した。
ペイオフ解禁は実際の資金シフトの経済効果もさる事ながら、「金融セクターは
構造改革が進み健全になりましたよ」という政策のアナウンスメント効果も
持つのである。今回の措置はまさしく「負の」アナウンスメント効果を持つこと
になった。(我々はまだ健全ではないっす、と主張していることになる)
だからこそ、大手都銀などは延期に反対なのである。
今後の政策はマーケットに対応していかないとだめであるが、今回はまさしく
それを無視した政策と言えよう。
<理由3>
破綻処理のコストについては、不良債権を含めた資産のダイナミズムを考える
必要があること。
破綻金融機関(ここでは、破綻がまだ表面化していないが、実質的に破綻して
いる機関のこと)の不良資産は時間と共に増大していくのである。すなわち、
破綻金融機関の速やかな市場からの退出が破綻処理コストの最小化につながる
にもかかわらず、今回はまさに問題の先送りであり、その間にも不良資産を
増大させてしまうのである。
それは結果として処理コストの増大につながることになる。
これもありペイオフ延期によって破綻処理コストは2倍になると言われている。
この状況はまさに金融行政の責任を問われた、90年代前半の住専問題の
ケースの繰り返しである。(住専問題は僕の卒論ですが)
これは金融論でも基本的な含意であり、「今解禁すると破綻コストが大きくなる」
という主張は経済学的には認められない。
○今後の課題
延期が決定してしまった以上、前を見るしかないが、必要とされるのは
金融セクターの危機意識と金融監督庁の監督権限の強化である。
2001年のペイオフに向け、大手都銀の中には大きな危機感があり、
これまでに信じられないような合併など大きな構造改革が進んだ。
ペイオフはこれらが進んだ大きな要因であるが、ペイオフが延期されたからと
言って手綱を緩めてはいけない。また、まだ構造改革が終了したとはいえない
地銀や信組に関しては、危機意識の中、再編や構造改革を進める必要がある。
またペイオフ解禁後に来るべき競争的市場のルールメーカーとして、
金融監督庁は各金融機関の監督機能を強化する責務が待っている。徹底した
監督は市場の健全な発展と表裏一体である。政治過程の透明化を徹底するため
にも、こうしたルール化、説明責任の徹底が求められる。
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2 株価などの予測
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ペイオフが長くなったので、簡単にいきます。
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よく「2000年の株価の予測は?」「1ヶ月後の為替レートは?」などと
いう質問があるが、実はこれらは経済学的にはナンセンスな質問なのである。
つまり、こういうことである。
世の中で頭のよい人が、1ヶ月後に株式が上がることを予測できたとする。
その人はその時点で株式を買うわけだが、そのような正しい予測が可能ならば、
マーケットには同じような予測ができる人は他にもいるし、マーケットの
動きは他の投機家にも波及するので、買い需要が増加し、株価はどんどん
上昇する。また最初の頭のよい人は、上がると予想した株価になるまで株を
買い続けるので、結局1ヶ月後ではなく瞬時に予測した額に到達してしまうので
当初の予測は成り立たなくなってしまうのである。
こうして「3ヶ月後の予測」などは経済学的には成り立たないのである。
しかしながら、金融市場では先物取引や株式の空売りなどが盛んであり、
これらが全く根拠のないものであるかというと、必ずしもそうではない。
長期的なトレンドというのは存在するからである。
例えばアメリカの株式の好況は、株式以外の資産価格がそこまで上昇して
いないこと、経済成長の35%が情報化によるものであること
(cf.ニューエコノミー論)、などからバブルではない、という主張も
ある。それが正しければ株式は上昇傾向にあるわけである。
(ちなみにバブルについてもその動向が完全に予想できれば、大金持ちに
なれるのである)
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こうしたトレンドを含めた今年の経済の見通しもいずれ書く予定です。
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3 編集後記
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新年最初と言うことで、長くなってしまいました。
最後まで読んでいただいた方、有難うございました。
ペイオフについては、最近議論されている内容はほぼ網羅したつもりです。
そのため長くなってしまいました。
もちろんご意見ありましたら聞かせてください。
議論のためにあえて、強調的に書いている部分もあります。(笑)
これからは、もう少し短く解説するケースと使い分けできたらいいな、と
今思っています。
では今年も1年よろしくお願いします。
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■文中のコメントは筆者のオリジナルな見解であり、一切の権利は筆者に帰属
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○メールマガジン「!!使える!!経済の基礎知識から応用まで」2000/1/10
発行部数:3870部
発行者 :片山 健太郎
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